喋れなくとも

どうしてボクは、みんなと同じ言葉が喋れないんだろう……。


「ホッパー、どうかした?」
ボクが木陰で少し考え事をしていると、いつの間にかサンダーが目の前にいて、そう聞いてきた。
「ホパ……ホパパ、ホッパ~。」
ボクは、【ううん……別に、なんでもないよ。】と答えるが、ボクの口からは“言葉”なんて出てこない。
それでも、みんなは何となくボクの言葉を察してくれる。
「そぅ? まぁ、それなら良いんだけど。」
サンダーはそう言うと、ボクの隣に座った。
「ホパ、ホッパー。ホパパホパ、ホッパ~?」
【ねぇ、サンダー。どうしてボクは喋れないのかな?】そんな意を乗せて、ボクはサンダーに話しかけた。
まぁ、たぶんサンダーにも完璧にはボクの言葉も分からないだろうし、無駄だろうけど……。
「え……; んなの、分かるわけないじゃんか……;」
サンダーは、そう言って考え込む。
…問われたって事は分かってるみたいだけど、考えたって分かるわけないよね。
問われた内容が分かんなきゃ。
「えっと、んと……あ! 適材適所!! ……は、意味が違うか;」
サンダーはそう言うと、再び考え込む。
「ホパパ、ホッパ~……。」
ボクが【分からないなら、諦めたって良いのに。】って呟いたら、
サンダーはパッとこっちを向いて、ボクを睨んだ。
「そりゃあさ、諦めるのは簡単かもしれないよ? でも、おれは諦めちゃいけないの!」
サンダーは突然、そう怒鳴った。
え……そんな、ニュアンスで分かるようなもんなのかな;
っていうか、“諦めちゃいけない”ってどういう事さ……?
「ホパ、ホッパ~?」
【それ、どういう事?】ボクは、そう問い返した。
「……未来は諦めぬ者に繋ぐものだからね。そんな未来の司り主が、諦めるわけにはいかないんだよ。」
サンダーは、ムスッとむくれてそう答えた。
……まただ。サンダー、ボクの言った言葉が分かってるみたい……。
「ホッパー、ホパパホッパ、ホッパ~?」
【サンダー、もしかしてボクの言葉、分かってる?】ボクがそう聞くと、サンダーはキョトンとして、何度か瞬きをする。
……やっぱり、分かるわけないか………。
「何、ホッパー……今まで分かってなかったの?」
サンダーは、キョトンとした顔のままでそう答えた。
「ホパ~~~?!!!」
ボクはサンダーの言葉に、【え゛ぇ~~~?!!!】と驚きの声を上げた。
「あ、ホントに知らなかったんだ; おれ、今までお前の言葉、結構通訳してやってたつもりだったのに。」
サンダーはそう言うと、クスッと困ったように笑った。
分かるんだ、サンダーには…ボクの言葉が……。
嬉しいのと、ビックリしたのと、申し訳ないっていう気持ちがぶつかり合って、ボクは何も言えなかった。
サンダーも、しばらく黙ったまんまで、辺りには沈黙が流れた。
「あ~……えっとさ、お前が喋れない事に関して、適する四字熟語も慣用句も浮かばなかったんだけどさ……。」
その沈黙を破って、サンダーはちょっと困ったように話し出した。
「ホパ、ホッパ~?」
ボクは、言葉の先に続く言葉を催促するように【うん、何?】と聞いた。
「喋れないってのは、マイナスじゃないんだよ。」
サンダーは、ボクの言葉にそう返してきた。
「ホパ……。ホッパ、ホパパ~?」
【何それ……。意味、全然わかんないんだけど;】ボクは、少し困ってそう返した。
だって、本当に意味わかんないんだもん。
「えっと、つまりね……。喋れない事も、ホッパーの立派な個性って事だよ。」
サンダーは、笑顔でそう答えた。……でも、やっぱり難しくて分かんないよ;
ボクが困って黙っていると、サンダーは再び悩みだす。
「だからぁ……ホッパーの良いトコと悪いトコが集まって、ホッパーになってるんだよ!」
サンダーは、笑顔でそう言ってくれる。……ボクの良い所と悪い所が集まって、ボクになる?
「つまりは、喋れなかろーがなんだろーが、ホッパーはホッパーで、それで良いんだよ。」
サンダーはそう言って、ニッコリと笑う。
「ホパパホッパー、パ~……。」
【ボクはボクで、それで良い……。】ボクは、サンダーの言葉を聞いて、そう呟いた。
「だからね、喋れなくたって良いじゃん。それはおれが通訳すればすむ事だし。ホッパーにしかできない事もあんだろ?」
サンダーはそう言って、ニッと笑う。
ボクにしか出来ないこと……か。
「ホパパ。ホパ、ホッパ~、ホッパー。」
【そうだね。ボク、くだらない事で悩んでたね。】ボクはそう言うと苦笑した。
ホント、ボクってば何てくだらない事で悩んでたんだろ……。

喋れなくったって、ボクの言葉を分かってくれる人がいる。
それだけで、十分だよね。
ボクはボク。ボクにしか出来ない事も、きっと何かあるんだから……!




アマノガワさんのキリリク、脇役モンスター側からの視点の小説、という事で、
ホッパー視点の話を書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか。
ちょっと、脇役で話を書くのは難しいものがありましたが;
こんなものでも、楽しんで頂けると幸いです。


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